IH

## IH(Induction Heating)とは
IH(Induction Heating:誘導加熱)とは、電磁誘導の原理を用いた加熱方式のことです。日本では、主に調理器具や家庭用のクッキングヒーターで広く知られていますが、工業用途でも広く用いられています。この技術では、電磁波(磁場)を利用して金属製の鍋やフライパンを直接加熱し、火を使わずに安全かつ効率的に調理ができるのが特徴です。
### 1. IHの仕組み
IHは、電磁誘導によって加熱対象を直接温める仕組みです。具体的には、クッキングヒーター内部にあるコイルに電流を流すことで、コイルの周囲に強力な磁場を発生させます。この磁場が金属製の鍋底に誘導電流を生じさせ、鍋自体を発熱させることになります。このとき発生する熱は「ジュール熱」と呼ばれ、電流が流れる金属の内部で生じます。
電磁誘導の特徴として、加熱は電気を通す金属部分にのみ影響するため、磁場が金属でない他の部分には影響を与えません。つまり、鍋やフライパンがあるところのみが加熱されるため、周囲はほとんど熱を持たないのです。この特性から、火を使うガスコンロとは異なり、調理中のやけどや火事のリスクが大幅に軽減されます。
### 2. IHクッキングヒーターの特徴
#### 安全性
IHクッキングヒーターの大きな利点の一つは「安全性」です。火を使わずに加熱するため、調理中に鍋が過熱して炎が発生する心配がありません。また、鍋を外すと自動的に加熱が停止するセンサーが備わっている機種が多いため、鍋を置いていない状態での誤作動も防げます。さらに、鍋がある位置だけが加熱されるため、周囲が熱くなることが少なく、キッチン環境の安全性が保たれます。
#### 高い加熱効率
IHクッキングヒーターは、エネルギー効率が高いことで知られています。電磁誘導によって鍋自体が発熱するため、熱が無駄に逃げることが少なく、効率的な加熱が可能です。ガスコンロの場合、炎が直接鍋に触れて熱を伝えますが、鍋の底や周囲に熱が逃げるため、エネルギーロスが多くなりがちです。一方、IHでは鍋そのものが熱源になるため、加熱に必要なエネルギーのロスが少なく、調理時間も短縮されます。
#### 温度調整が容易
IHクッキングヒーターは、電子的に温度調整が可能です。多くのIHクッキングヒーターには数段階の温度設定や火力調整機能があり、低温から高温まで細かく調整できます。このため、煮込み料理などで低温を保つ調理や、炒め物などで瞬間的に高温を出す調理など、幅広い調理法に対応できます。さらに、温度センサーを内蔵しているモデルもあり、鍋底の温度を感知して適切な火力を自動で維持する機能も備わっています。
#### 掃除が簡単
IHクッキングヒーターの多くは、フラットでガラストップになっているため、掃除がしやすいのも特徴です。ガスコンロのようにコンロ内部に汚れが溜まったり、鍋底の焦げ付きがコンロに残ることがほとんどありません。調理中に食材がこぼれても、加熱されるのは鍋の底のみなので、コンロ自体が熱くなることが少なく、調理後に簡単に拭き取ることができます。
### 3. IHクッキングヒーターと従来のガスコンロとの比較
IHとガスコンロには、それぞれにメリットとデメリットがあります。以下では、その特徴を比較していきます。
| 比較項目 | IHクッキングヒーター | ガスコンロ |
| -------------- | ------------------------------------- | ------------------------------- |
| **安全性** | 火を使わないため火災ややけどのリスクが低い | 火を使うため火災ややけどのリスクがある |
| **加熱効率** | エネルギーロスが少なく効率的 | 炎が鍋の周囲にも熱を拡散させロスが多い |
| **温度調整** | 電子的に調整可能で正確 | 細かい調整が難しい |
| **掃除のしやすさ** | フラットで掃除が簡単 | コンロの周囲に汚れが溜まりやすい |
| **鍋の制約** | 対応する専用鍋が必要 | ほとんどの鍋が使用可能 |
### 4. IHクッキングヒーターに必要な鍋
IHクッキングヒーターは、磁性体である鍋でのみ加熱が可能です。一般的に、鉄やステンレス製の鍋が適しています。アルミニウムや銅など、磁性を持たない素材の鍋はIH加熱では使えません。このため、IH対応の鍋を購入するか、現在の調理器具が対応しているかを確認する必要があります。IH対応鍋には、「IH対応」「IH可」などの表示があるため、購入時に確認することが重要です。
### 5. IHのデメリット
IHクッキングヒーターには多くの利点がありますが、デメリットも存在します。
- **専用の調理器具が必要**:前述の通り、磁性体である鍋やフライパンでなければ使用できません。
- **調理中の音**:IHクッキングヒーターは、電磁波を発生させる際に「ブーン」という音が出ることがあります。この音は製品によって異なり、静かなモデルも増えていますが、気になる場合もあります。
- **電気依存**:IHは電気を使用するため、停電時には使用できません。ガスコンロであれば停電でもガス供給があれば使えますが、IHは完全に電源に依存しているため、電力の確保が必要です。
- **電磁波の懸念**:一部では、IHから発生する電磁波による健康への影響が懸念されることがあります。一般的に家庭用のIH調理器の電磁波は人体に影響を与えない範囲内とされていますが、心配な場合は医師に相談するのも良いでしょう。
### 6. IHクッキングヒーターの種類と選び方
IHクッキングヒーターは、設置方法や加熱口数などによりさまざまな種類があります。
- **据え置き型とビルトイン型**:据え置き型は簡単に設置できるため、賃貸住宅や引っ越しの多い人に適しています。ビルトイン型は、キッチンのカウンターに埋め込んで設置するタイプで、キッチン全体のデザインに統一感が出ます。
- **口数**:一度に複数の鍋を使用する家庭では、2口や3口のIHクッキングヒーターが便利です。多くの家庭用IHクッキングヒーターでは、1口または2口での調理が主流ですが、大型モデルでは3口や4口も選べます。
- **追加機能**:温度センサーや調理モードなど、便利な機能を搭載しているモデルもあります。自動温度調整機能があると、火力の自動調整ができ、煮込み料理などでも焦げ付きを防げるため便利です。また、タイマー機能があると、忙しい調理中でも自動で調理が終了し、調理が楽になります。
### 7. IHの産業利用と
応用分野
IH技術は、家庭用クッキングヒーターだけでなく、産業分野にも広く応用されています。たとえば、金属の焼き入れや溶解、鋳造などの加工で用いられています。工業分野でのIH加熱は、鍛造や成形、溶接など、高精度かつ効率的な加熱が求められる分野において重要な役割を果たしています。
### 8. 今後の展望と技術進化
IHクッキングヒーターは、今後もますます進化が期待されています。たとえば、無線での電力供給技術を用いた「ワイヤレスIH」や、さらなる効率向上を目指した高周波技術の開発が進められています。また、調理器具との相互通信を可能にするIoT技術の導入も進行中で、レシピに応じた火力調整や調理の自動化など、より便利で省エネな製品が登場する可能性があります。
### まとめ
IH技術は、調理や工業の加熱工程で画期的な役割を果たす技術です。安全性の向上やエネルギー効率の良さ、温度調整のしやすさなどのメリットにより、多くの家庭で愛用されています。


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